2003.03.17 up

相棒 ―あるパイロットの呟き―

 飛ばない日が続いてもう何日になるのだろう。外は嵐のように気流が荒れ狂っていたのだから飛びたくても飛べないのも事実だけどこう続くと嫌になる。
 ずっとずっと整備するばかりでもうやる所がなくなりそうだぜ。まるで博物館の展示物。磨きすぎて塗装が剥げそうなんてのが冗談でなくなりそうで怖い。
 たまにはエンジンをぶん回してやらないと。高温のガスがエンジンの内肌を焼きビリビリとした振動が俺の身体を包む   俺が俺であり、お前がお前である為の瞬間。このままでは本当に飛べなくなってしまう。お前も俺も。

 改めて、見れば見るほど懐古趣味な外見だ。チーフのゼロとは一目瞭然、旧式の百式探査機と比べてもかなり古臭く見える。一体どうしてこんなデザインにしたのか、設計者にいっぺん聞いてみたい気分になる。
 例えていうなら、そう、子供の頃絵本で見た、大昔のスペースシャトルに何となく似ている。勿論あっちは大型宇宙船こっちは宇宙攻撃機、大きさも用途も全然違うし、第一推進装置その他諸々使われている技術は天と地だ。(当然スペースシャトルの方が骨董品である。)
 スペースシャトル全盛時代、宇宙に出るのは大変な事だったらしい。それより前の、シャープペンシルのようなロケットで出て行って先っぽだけが帰って来るような時代に比べれば随分マシなようだが、それでも選ばれた一握りの人間が命がけで行くものだったようだ。
 今では火星まで2日で行ける。こんな時代だから今は廃園になったが、10年位前なら月の遊園地だって子供から老人まで余程の事がなければ誰でも行き放題だった。
 ・・・待てよ。よく考えると俺がお前に乗る時も大抵命がけだよな。シャトルとは理由は違うけど。変なところが似ていて笑っちまう。
 理由といえば宇宙を飛ぶ理由はえらく違う。シャトルの時代は望遠鏡の設置、無重力下での実験、宇宙からの授業、ステーション建設、とにかく夢とかロマンとか言う言葉が似合いそうだ。いい時代だったんだよな。まさに宇宙フロンティア時代。
 俺たちが飛ぶ理由はといえば、今はどちらの言葉とも縁遠い。強いていうなら希望、はあるかな?実感は薄いけど、多分。

 ふうー。、妙な感傷に浸るなんて、俺らしくも無い!はるか遠く、銀河系の外まで出て来たせいだろうか。
 無事オクトパス星団の海峡も抜けた事だし、そろそろ飛べるようになるだろう。チーフの事だ、もしかしたら既に計画を立てていて明日にでも訓練開始かもしれない。
 そうしたら思う存分飛ばせてやるぜ、ブラックタイガー。なんてったってお前は俺の命を預ける大事な相棒なんだから。


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